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Tue Dec 2 04:00 PM
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政策委が金融市場調節方針を現状維持とするか、緩和に踏み切るかで真剣な議論を展開している段階で、政策委室の壁面に設けられた市況と速報ニュースを表示する電光ボードが、「N銀政策委が公定歩合を○・一五%下げて○・三七五%にする」とのニュースが流れた。
「何だこれは?」。
まさに今、自分たちが論じている内容が、「決定」として流れている。
だれが流したのか、市場操作か。
実際の公定歩合の下げ幅は、すでに見たように○・一五%だったから、この時の電光ボードの〃特ダネ〃は誤報だったことになる。
しかし、コールレートとの幅をいくらにするかという議論の過程では、報道通りの○・一二五%下げ案も出ていた。
政策委会合の内容が、会合と同時並行的に外部に伝わる事件は、前章で見たように、ゼロ金利解除時にも起きている。
それだけ、N銀の政策変更に対して世の中の関心が強いことでもあるが、水面下で政府・政治に配慮もみせるN銀側に、情報管理上の問題がないのかという疑念も残した。
同日夕刻。
会合を終えて、政策委議長としての会見に臨んだHは、開口一番こう言った。
「(今回の政策変更は)量的緩和策を回避するためにやったというものではない。
(量的緩和の)政策運営を採用することは、今適当でないというのが、政策委の判断である」これで十分ではないかというHの思い。
だが、記者たちは次を探っていた。
執勤な質問にうんざりした表情で、Hは最後にこう答えてしまう。
「公定歩合というのは一つのシンボル的なものかもしれない。
今度の場合も、そんなに(資金需要が)駆け込んでくるとは思わない。
大体は無担保コールで調達が必要なものは調達できていくのではない自ら打ち出したばかりの公定歩合引き下げとロンバート型貸出導入という新手の資金供給策の効果は、実は大したことはないんだと、間接的に認めてしまったのである。
それでは不十分。
市場は「次」を見据えていた。
二月十七日にイタリア・パレルモで開いたG7会議。
共同声明は「潤沢な流動性供給を引き続き確保すべきだ」と、日本の金融政策に言及した。
会議に出席したHは記者会見でこう説明した。
「量的緩和の要求があったかと聞かれれば、そういうことはなかった。
声明に、潤沢な流動性を『引き続き確保する』とあるのは、先般の措置で示した方針と整合的なものだと思う」だが、市場は半分領き、半分首を傾げた。
確かに声明の文面はそうだが、声明はN全体の懸念材料として、物価の下落と、景気の下振れの一つのリスクを指摘した。
物価下落の防止は金融政策が担う一義的責務だ。
現行のコールレート翌日物の○・一五%を変えず、公定歩合下げとロンバート型貸出導入だけで、その責務を果たせると断言できるのかどうか。
市場の一部が、G7声明を「日本に対して一層の緩和を求めた」と読んだのは、必ずしも先走りではなかった。
株式相場は、デフレ不安と銀行の不良債権処理の行方をにらんで、不安定な展開を続けてい不良債権を銀行のバランスシート(貸借対照表)から直接償却することを意味する最終処理の促進は国際的にも求められていた。
ただ、処理を進める間、デフレ効果は高まる。
処理財源を確保するために銀行の貸し渋りも増える可能性がある。
さらに、その間の株価下落は銀行の体力を消耗させる。
同日の会合で委員たちの意見は錯綜した。
議事要旨からも、全体として浮足だった印象が伝わってくる。
多くの委員は先行き、需要の弱さを反映したデフレ圧力が再び強まる懸念があるとの認識で一致していた。
追加措置に踏み切ることでも大勢は賛成した。
だが、悩ましいのは追加策の中身。
流動性供給策は前回で、手の内を見せてしまった。
いよいよ、ゼロ金利に戻すか、それとも量的緩和「Nへの不信感」は、森政権への不信感とも重なっていた。
首相の森喜朗は、前年五月の就任以来、「神の国」発言、同十月には北朝鮮の日本人位致問題で「第一国での発見」発言と、舌禍事件を重ねてきた。
この時、ついに致命的な失態を演じてしまう。
二月十日(現地時間九日午後)に米ハワイ・オアフ島沖で起きた宇和島水産高校(愛媛県宇和島市)のマグロはえ縄漁実習船えひめ丸が、米原子力潜水艦グリーンビルと衝突、沈没した。
この事故で九人が犠牲になった。
そのころ、森は横浜で友人とゴルフの最中。
事故の第一報を受けてもプレーを続行したことから、世論の批判が集中した。
さらに知人が購入したゴルフ会員権を自分名義にしていたことも明るみに出て、積もり積もっていた森批判が与野党から噴出した。
首相退陣論の高まりと、緊急経済対策を求める市場の悲鳴が交錯する中、N銀は二月二十八日に再び政策委会合を開いた。
会合の前に発表された一月の鉱工業生産指数は過去最大の低下幅を記録した。
会合中に日経平均は日米景気の先行き不安から売り浴びせられ、同日の株価は一九九八年十月以来の水準となる終値ベースの一万三千円割れ(一万二千八百八十三円五四銭)となった。
策に一気に転じるか、中間策をひねり出すか。
焦点は同日の会合である委員が告げた「通常は行われないような政策手段(非伝統的政策手段)まで踏み込むか」という点に絞られる。
量的緩和策の是非に合この日の会合では、各委員の行動に従来と異なった動きがあった。
まず一貫してマネタリーベース・ターゲティングを採用して量的緩和策に転じることを求めてきたNが、そこに至る一歩として、従来案に変えて、ゼロ金利復帰と公定歩合の○・一%引き下げを求める議案を出した点だ。
政策委が合意しやすい現実案を意識したように映った。
Sも改めて議案を提案した。
金融市場調節方針は現行維持としながら、国債買い切りオペを消費者物価指数の前年同期比が安定的にゼロ%以上になるまでの間、買い入れ金額を月額四千億円から当面八千億円に増額するという内容だった。
市場調節の一層の機動性を確保する理由が付されていた。
S案にはNが賛成したが、両案はともに否決される。
結局、次回会合で「通常は行われないような政策手段まで踏み込むかどうかの検討を深める」ことを前提にして、公定歩合とコール誘導水準をそれぞれ○・一%ずつ引き下げる小幅変更案が議長提案として採択された。
七対一(反対はN、S)。
小幅だが追加緩和には違いなかった。
しかし、事態の打開に無力であるのは委員たちの目にも明らかだった。
「小出し方式」。
市場は全く反応せず、逆に米株価下落にもあおられて、日本の株式市場も失望売りに向かっていく。
一月十三日には世界的な連鎖株安の様相が深まる中、日経平均は終値で一万二千円を割った(一万一八一九円七○銭)。
三月十六日。
この日公表された政府の月例経済報告は、「現在、Nは緩やかなデフレにある」と政府として初のデフレ宣言を行った。
すでに前月のG7会議での指摘を受け入れた形でもあった。
同時に、景気判断も前月までの「改善のテンポがより緩やかになっている」の表現から、「改善に足踏みがみられる」の表現に変えた。
二年以上の継続的物価下落をデフレと呼ぶ。
OECDの主要先進国の中で、そうした状況が生じているのは日本だけだった。
政府のデフレ宣言で、焦点は物価下落と実体経済の縮小が相互作用して、不況が加速するデフレ・スパイラル入りをいかに防ぐかに移っていく。
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